「ここにあるものを、大切に活かす」北の大地・ノースプレインファームで見た酪農家としての在り方。
全国各地の生産者さんの元を訪れていると、うまく活用されずに眠っている食材=「未利用食材」がたくさんあることを知ります。
酪農家の多い「那須」という土地で働く僕たちGOOD NEWSが、「ホエイ」という未利用食材に出会ったのは、とても自然なことだったのかもしれません。
「ホエイ」は、チーズづくりのなかで生まれる副産物。タンパク質が豊富で栄養価も高いホエイですが、活用方法の少なさからそのほとんどが活用されずにいました。
そんなホエイから生まれたのが、サクほろ食感が美味しい『ブラウンチーズブラザー』。このお菓子をつくることで、那須の酪農家さんからたくさんのホエイを買い取れるようになりました。

ただ、酪農家がいるのは那須だけじゃない。GOOD NEWSは、知人づたいに繋がった全国の牧場から、ホエイを分けてもらうようになりました。
そうして出会った牧場と、ホエイが生まれる過程のことをもっと知りたい。自分たちのつくるお菓子のルーツに触れるために、GOOD NEWSのメンバーは北海道のとある牧場を訪れることにしました。

牛からもらった恵みを最大限に活かしきる酪農の取り組みを、GOOD NEWS代表・宮本吾一が取材してきました。
『ブラウンチーズブラザー』について紹介した前回の記事はこちら
オホーツク海のすぐそば、寒さ厳しい牧場を訪ねて
宮本吾一です。僕はお菓子をつくるとき、食材をつくっている生産者さんの土地に行って、彼らが見ている風景を一緒に見させてもらいます。その土地に行ったり、作業をお手伝いしたりしないとわからないことが確かにあるからです。
せっかく食材を仕入れるなら、その取り組みに共感できるような生産者さんから食材を仕入れたい。それにはやっぱり会うのが一番です。
『ノースプレインファーム』さんを訪れたのも、彼らの酪農を間近で見てみたかったから。僕は今回の取材で彼らに会うために、人生ではじめて、北海道・興部町(おこっぺちょう)という土地に来ました。

紋別空港からレンタカーを借りて、向かうこと約40分。オホーツク海に面した興部町(おこっぺちょう)に、目的地の牧場『ノースプレインファーム』はあります。
彼らの行なっている放牧酪農や、有機栽培の牧草づくり、生乳を加工したチーズ製造、自社レストランの運営などの取り組みを続けるためには、想像を超える覚悟と胆力が必要なはず。

牧場を訪れた僕たちを、ノースプレインファームの吉田さんは快く迎えてくれました。
彼が最初に案内してくれたのは、牧場に併設されたレストランでした。

レストラン「ミルクホール」が開業されたのは、いまから30年以上前のこと。当時、ノースプレインファームのある興部町は北海道でも最も観光客の少ない町だったといいます。
それでも店を開いたのは、「牧場でつくった牛乳やチーズを、実際に食べてもらえる場所が必要だ」と考えたから。いまでも、提供されている料理には自社製のチーズやバターが使われています。

吉田さんは僕たちに、牛乳を振る舞ってくれました。オーガニックの牧草を与えて育てた牛の生乳は、「有機牛乳」として販売されています。
「昔は、自分たちの育てた牧草だけで牛を育てることにこだわっていました。でも、それだと牧草の収穫量や出来が、牛の食事に直結してしまうんです。うまく牧草が育たずに、牛にかわいそうなことをしてしまった年もありました」。
時代の変化もあり、いまは周囲の酪農家さんもオーガニックの牧草を育てるようになったそう。地域のなかで手を取り合いながら、オーガニックの牧草で牛を育てられるようになってきた。

いただいた牛乳も、自社製チーズがたっぷりと乗ったハンバーグも、濃厚ですごく美味しかった。町外に住む人がわざわざドライブをしてまで食べにくるというのもわかります。
「最近の牧場だと、自分達でチーズやバターを製造して販売するところも少なくないでしょう。ただ、うちは早い方だったと思います。当時はまだ、『六次産業』という言葉もありませんでしたから」。

そんなチーズやバターを、ノースプレインファームは牧場の隣に建てた自社工場で製造しています。工場の様子をみて回るうちに、僕たちは彼らの「生乳をつくる人々」としての気概に感動することになります。
作業服に着替えた僕たちは、ミルクやチーズ、バターが生まれる工場を見せてもらうことにしました。
生乳を無駄にしない、チーズとバターづくりへの想い
ノースプレインファームのことを知って最初に驚いたのは、自社でつくる加工製品の多様さでした。チーズはもちろん、バターやお菓子、レストランで提供するソフトクリームと、ミルクのいろんな楽しみ方をつくっている。

「きっかけは、『自分達で食べるものを自分達でつくりたかったから』だと聞いています。社長の大黒がそういう想いを持っていたので」と吉田さん。
僕たちは、バターづくりの設備と、チーズづくりの設備を見せてもらうことに。吉田さんは、「小さい機材ばかりですよ」と笑いながら案内してくれます。それでも、自分達の牧場で絞った生乳は、加工食品の製造ですべて使いきれているそう。それってすごいことです。
「ノースプレインファームでは、自社の生乳を使った『有機バター』を月に80kgほど製造しているんですよ」と吉田さん。

チーズやバターをつくるなかでどうしても余ってしまうスキムミルクは、加工してペットフードとして販売しているそう。「人間が食べるにはミルク感が薄いのですが、ペットからすれば栄養もあって余分な脂肪の少ない食べ物になりますから」。

牧場として、酪農家として、生乳を捨てずに使い切ろうとするためにここまで手を尽くせる人たちは多くありません。生乳を美味しく加工するための研究と開発も、安定してつくるための工場設備への投資も、簡単なことじゃない。
この牧場からホエイを預かり、お菓子にすることで、ノースプレインファームのような取り組みをしている酪農家たちがいることが、もっと多くの人に知られるといいなと思います。


地域の牛乳を、地域の子どもたちへ
工場を見学する途中、僕たちはある保管庫に案内してもらいました。そこにあったのは、ケースに入って積み上げられた、たくさんのボトル入り牛乳。
「実は、興部町内の小学校給食に牛乳を提供しているんです。採算のことはさておき、私たちがやりたいことなので」

そこには、興部町で生まれた大黒社長の想いがありました。
「昔は、学校給食で出されている牛乳は大手メーカーさんの牛乳だったといいます。同じ町でも牛乳をつくっているのに、それが飲めないなんて。地元の子に地元の牛乳を飲んでほしいという気持ちが、ずっとあったそうですよ」と吉田さん。
聞くと、経営状況の厳しくなった数年間、学校への牛乳提供をストップしたこともあったらしい。
「それでも、従業員のほうから『学校給食への牛乳提供は、わたしたちの原点だから』と復活させようとする声が上がったんです。いまでは160名ほどいる生徒たちにほぼ毎日牛乳を提供しています」

この話を聞いて僕は、彼らの酪農家としての在り方がここに詰まっているように感じました。短期的には儲からなかったとしても、興部町で育つ子どもたちに毎日牛乳を飲んでもらうことが、町の食文化に繋がるかもしれない。
日常的に触れる食事は、その人に何かを染み込ませていく力のようなものがあると感じます。
「出したい時に出す」というわけじゃないからこそ、慢性的な赤字が出たとしても、他で黒字を出す手腕も必要になってくる。そういう背伸びが、生乳を扱うノースプレインファームの矜持と覚悟を表しているようにも思いました。
「せっかくですから、外にいる牛たちも見ていってください」。そう言って吉田さんは、牛たちがいるところへ連れて行ってくれた。

工場の外に広がる広々とした牧草地で、牛たちは自由に過ごしているといいます。牛乳を搾るために育てている牛は、現在50頭ほど。
「実は、いま搾乳している分の生乳だけではチーズやバターの加工に足りていないんです。なので、同じようにオーガニックの牧草で牛を育てている近隣の牧場から生乳を買って、加工製品の原料にしています」。

頭数を増やすことはしないんだろうか?素朴な疑問を当ててみると、吉田さんは「しない」と話す。
「育てる頭数を増やすよりも、同じようなことを考えている牧場と協力していくことの方が大切だと思っています。オーガニックの牧草を使って牛を育てて、有機の生乳を作っても出荷先が同じなら自己満足に終わってしまう。そうならないためにも、製品にして価値を高めていけたら」。
あくまで、そこにある酪農の営みをどうやって価値に変えていくのか。「生乳を、いいかたちで届けたい」という一貫する思いが、ノースプレインファームの取り組みの多様さを生み出しているようでした。

「せっかく絞った生乳を、無駄にしたくない」ということを、牧場のどこにいても感じることができました。
ノースプレインファームを訪れて、酪農への想いと乳製品づくりへの想いに強く感動しました。何よりも、地域の子どもたちに地域の味を知ってもらうため、牛乳を提供しているという取り組みのことが、忘れられません。

学校給食への牛乳提供は、僕たちが地域の食文化について考えるきっかけにもなりました。ノースプレインファームの牛乳に触れ続けているこどもたちが、いつか他の大きな街に出て牛乳を飲んだとき、その味の違いに驚くかもしれない。
そんなときにはじめて、自分達の町の食文化を意識することができるのかもしれません。
僕たちも、全国の酪農家さんのホエイを預かりながら、那須のまちからはじまる食文化を大切につくっていきたいと思いました。それはきっと、ブラウンチーズブラザー(BCB)というお菓子で実践していきます。
宮本吾一